少女と樹

 私の家の前に、大きな木が生えていた。
 それは私が生まれた時から生えていて、学校に行く時も、遊びに行く時も、いつもその木の前を通った。

 ある日学校から帰ると、その木が切り倒されていた。
 私は横たわった木を、暗くなるまで眺めていた。

 家に帰る時、葉っぱを一枚だけ持って帰った。
 部屋でその葉っぱを見た時はじめて、私はあの木が大好きだったのだと思った。

 ちょうど、私が少しだけ大人になった日の事だった。

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「死神」

 いつからだろう。手招きする死神が見えたのは。
 私は、彼をひどく怖れながら暮らした。

 ある日、私は思いきって死神に話し掛けてみた。
 すると、死神は一歩私の側へと近付いて来た。
 更に話し掛けると死神は一瞬手を止め、もう一歩近付いて来た。

 私はその日から、死神に話し掛け続けた。

 今では死神は私の隣に座り、時おり頷いたり、うつむいたりしながら、悩みを聞いたりもしてくれる。

 意外と、気心の通じる奴だった。
 私はいつの間にか、死神と友達になっていた。

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桜の記憶

 私の一番古い記憶は、頭上から降り注ぐ桜の花びらだ。
 その中の一枚が、空中で消えた。
 そう、確かに消えたのだ。

 あれから80年が、経った。
 ある日、空中に一枚の花びらが現れた。
 それは、静かに舞い落ちて来ると、掌の上で止まった。

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神と悪魔

 昼の彼は、人を救いたくて仕方がなかった。
 飢えている者がいればパンを与え、窮する者がいれば手を差し伸べた。
 人々は、彼を神の如く敬った。

 夜の彼は、人を殺したくて仕方がなかった。
 欲望が抑え切れなくなると、人の胸にナイフを何度も突き立てた。
 人々は、夜の彼を悪魔の如く怖れた。

 死に臨む時、彼は神に問うた。
 「私は人生の中で、100人の命を救い、100人の命を奪いました。
 私は自分の存在が解りません。
 私は一体正義なのでしょうか?悪なのでしょうか?」

 神は答えた。
 「お前は正義ではない。
 お前は悪ではない。

 お前は「器」だ。
 それは神であり、悪魔である。
 大地であり、空である。」

 男は問うた。
 「私は天国へ召されるのでしょうか。地獄へ堕ちるのでしょうか。」

 神は答えた。
 「お前が行くのは天国であり、地獄でもある。」

 男の意識が途切れた時、地上で産声が一つ上がった。

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少年と種

 とある貧しい村で、一人の少年が生まれた。
 少年には、不思議な能力があった。

 気持ちを向けると、手のひらから茶色い粒が溢れ出し、それを見た子供達は必ず笑い出す。
 少年の手のひらから、さらさらとこぼれ落ちた粒を見て、赤ん坊でもケラケラと楽しそうに笑うのだった。
 それを見て、少年も楽しそうに笑った。

 少年は、畑仕事が下手だった。
 力が弱く、人の半分も仕事ができない。
 薪を割るのも下手で、よく怪我をした。

 そんな少年を見て、大人達は「あいつは何もできない」「役立たずだ」と言った。
 少年の能力を、「意味が無い」「無駄だ」と言った。

 やがて少年は失意の中、村を出て行った。

 それから月日は巡り、村は豊かになっていた。

 村一番の力持ちは、幼い日を思い出してこう言った。
 少年を見るのが楽しくて、その日は飢えを忘れる事が出来たと。

 見事な生地を織る機織り娘は、幼い日を思い出してこう言った。
 少年の事を思い出すと、いつでも気持ちが安らいだと。

 村一番の働き者は、幼い日を思い出してこう言った。
 畑を耕しながら、いつも少年の事を思い出していたと。

 少年の種は、村中の花となって咲いていた。

 少年は、今も種を蒔いているのだろうか。

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二人の老人

 紅い夜空を眺めながら、一人の老人は言った。
 「やがて、旅が終わるのだ。」

 遠い国で、同じ夜空を眺める一人の老人がいた。
 彼の、歩む速度は変わらなかった。

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月の女神

 大地の神と、月の女神は同じ場所で生まれた。
 二人は仲睦まじく育ち、やがて離ればなれとなった。

 幾千の日々を経て、二人の思いは募り、互いに逢いに行く事を決意した。
 果てしない時間と困難の末、二人は遂に巡り会った。

 その瞬間、月の女神の体は泡の様に砕けて行った。
 神々の法を破った二人への罰であった。

 砕けて行く我が身を感じながら、月の女神は「やっと逢えた」と言った。
 砕けて行く月の女神を抱き締めながら、大地の神は「やっと逢えた」と言った。

 大地の神の喜びは草木の芽となり、世界は緑で覆われて行った。
 月の女神の破片は月光となり、夜の間だけ、ひっそりと大地を照らし続けたという。

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少女と花

 ある時、少女は珍しい花を見つけた。
 花を手にした少女は、遥か遠くの少年を思った。
 しかし、その距離は余りに遠く、少女は届ける術を持たなかった。

 少女は、丘の上から、少年の住む町を思った。
 風が吹いた時、空に向かいそっと花を投げ入れた。

 そして、ひとことだけ「届け」と言った。
 花は砕けながら、風の向こうへと連れ去られて行った。

 ある時、少年は道端に咲く珍しい花を目にした。
 通り過ぎる時、どこか懐かしいその香りは、少年の心をほんの少しだけ和ませたという。

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運命と両手の形

 人は、抗がえぬ運命を目前にした時、「諦め」の他に、もう一つの選択肢を与えられる。
 それは、「受け入れること」だ。

 「諦め」と「受け入れ」は、同じ貌をした双児の姉妹だ。

 鏡映しの様な二人は手の形が違う。

 「諦め」の両の手は力無く垂れ下がり、「受け入れ」の両の手は抱き留める様に前を向いている。

 「諦め」は何も持たない両の手に絶望するが、「受け入れ」はこれから手にする全てを祝福する。

 両者ともその両眼を閉じているが、一人は視覚を遮断し、もう一人は注意深く耳を澄ませている。

 ある時、一人は風の音を聴く。

 目を開くと、その先には遥かな高原が拡がっている。

 瞬間、強い向かい風に襲われる。

 両の手は、迷う事なくその風を抱き締める。

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プロフィール

方条瞬刻

Author:方条瞬刻
■ カルチャー学校講師や身体講座の企画を行っています。 
■ 「動きにおける根本原理の組み替え」に主眼を置いた、【源運動/源武術】の概念を提唱し、武術や身体動作を研究しています。 
■ 松聲館・甲野善紀先生、半身動作研究会・中島章夫先生の術理を研究。 
■ 定期的に中島先生を講師にお招きし、東京都中央区にて「甲野善紀の術理史」という稽古会を開催中。 
ほびっと村学校講座「りきみをぬく」-日常・運動に役立つ脱力法-講師。

(お問い合わせ、ご感想など)連絡アドレス
houjoushunkoku@gmail.com
●現在、稽古会等の情報をメールマガジンにて配信中(無料)。
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