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武術を学ぶ意味(2)

 「強さ」という最も原始的で根元的な価値観において、荒ぶる魂や苛烈な感性こそが、その獲得の最善手段という常識の中で、全く逆位相である「静かな心」の有効性を誰かが発見した瞬間、武術における「価値の反転」が始まったのだと思います。

 私が中島先生の稽古会に始めて参加した時、最初の驚きは「こんなに楽しんでも、笑ってもいいのだ」という事でした。
 技術的に感じた驚きは、自分の考えていた体の使い方と「全て逆」であるという事でした。
 そして、稽古を進めるほどにその思いは強くなりました。

 頑張らない方が強い、力を込めない方が強い、勝利への執着心が弱い方が強い、心が静かな方が強い……
 私が、甲野先生があまり好まないであろう「脱力」という技術にも強い関心があるのは、最初の大きな切っ掛けが脱力に関連したものだった事だけではなく、「力を抜く方が強い」という方法論に、色濃く「価値の反転」を感じていたからなのだと思います。

 甲野先生は以前著作の中で、「剣禅一如」の思想に必ずしも手放しで賛同はしないが、柳生が剣と禅を結びつけた事により、戦国の臭いが残る諸大名の獣性を抜く効果があったとのご見解を示されていたと思います。
 私も必ずしも剣と禅が「一如」であるとは思えませんが、柳生の計り知れない功績は、「剣禅一如」という言葉に乗せて、「武術」と「静かな心」を結び付けた思想を、幕府惣目付という影響力のある立場から、広く諸大名へ浸透させた事にあるのではないかと考えます。

 そうして行き渡った反転装置は、日本独自の心法剣術の文化を発展させ、無住心剣術の様な、ある種究極的な形としても花開いたのだと思います。


 江戸期において、当たり前の様に民衆にまで浸透し、幾種類も存在したであろう反転装置は、現代社会においても有効である、と私は考えます。
 実際、形骸化もありながら、その頃から継承されている文化や、東洋的な「引き算の思想」を好む人々は一定数存在します。

 これらの思想の見直し、発見、再構築を行いつつ、近代文明に適合するよう整えながら運用する事が、大勢が突き進む肥大化への速度を緩和し、価値観の見直しと共に方向性を反転させる得る鍵となるのではないか、と私は考えています。

 しかし、「だから侘寂(わびさび)は素晴らしいのだ」だとか、「この文化に学ぶべきだ」といった、綺麗事や道徳論では、人の心など決して動かず、せいぜい権力者にとって都合の良い洗脳材料となるのが関の山だと思います。
 それは、かつての先人達にとってそうであった様に、実際に各々の心を揺り動かし、自主的な美意識に共鳴する物でなくてはならないと思います。
 つまり、それ等を提示する者は押しつけがましい綺麗事を排除し、受け取る側に理屈抜きで「素晴らしい」と思える質を有した、何らかの世界を提示できねばならないと思います。

 武術においては、純然たる「技の有効性」として、それを証明せねばならないと思います。
 人間にとって最も原始的で、根元的な「強さ」という価値観の頂点に存在するものが、「静かな心」「争わぬ心」だとしたら、争いを好む者程、争わぬ心を目指さざるを得ないという価値観の逆転現象が起こります。
 その様な思想が常識となったならばこれほど面白い事はなく、「争いを止めよう」「戦争反対」という言葉よりも遥かに具体的な意味を持って、争いの抑止効果となるのだと思います。

 私はいつからか、「静かな心」が持つ、道徳論を超えた具体的な有効性を、身を持って証明したいと思い始めました。
 つまり、「価値の反転」を、この身を持って体現する事。
 私自身が「反転装置」そのものと化す事。
 どうやら、それが私の現時点における武術を学ぶ目的であり、意味である様です。

 しかし私個人の範疇においては、それにより世の中を変えようだとか、深い開悟を得ようなどとは更々思わず、結局はそれ等もふくめて「面白いから」という最初の動機に立ち返ります。

 というのも、私は武道、武術を熱心に追求する者に共通して現れる、ある特有の、そして深刻な心理的問題点を感じているからです。
 又、武術によって得た境地というのは、どこまで行ってもあくまで「武術の境地」であり、それを安易に人生やこの世の法則と結び付けたがるのは、武術家特有の思い上がりであるという考えも、一方で持っているからです。

 私はこれから、我が身における「価値感反転の体現」という目的と同時に、私が考える「武術家における問題点」の認識を両手に携えながら、術理を研究して行きたいと思っています。
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tag : 武術を学ぶ意味 原理武術

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方条遼雨

Author:方条遼雨
■ カルチャー学校講師や身体講座の企画を行っています。 
■ 「動きにおける根本原理の組み替え」に主眼を置いた、【玄運動/玄武術】の概念を提唱し、武術や身体動作を研究しています。 
■ 松聲館・甲野善紀先生、動作術の会・中島章夫先生のアシスタントなども。 
ほびっと村学校講座「りきみをぬく」-日常・運動に役立つ脱力法-講師。

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