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武術を学ぶ意味(1)

 皆様今年もよろしくお願いいたします。
 私が武術を学ぶ中で、明確となって来た事柄があります。
 遅ればせながら、そのご報告を新年のご挨拶と変えさせていただきます。


 私は元々、「楽しそうだから」「面白いから」というだけで、特にこれといった理由も無く武術を学んで来ました。
 しかし、甲野先生の影響もあり、いつの頃からか「武術を学ぶ意味」の様な物が身の裡に生じて来ました。
 それは、どうやら自分は武術を通じ、「価値観の反転」を行いたいのだという事です。


 現在の文明や世の中における、閉塞感や多くの問題点は、「より大きく」「より広く」「より大量に」と、肥大を続けた人間の欲求に起因するものだと思われます。
 しかしそれは向上心や探求心と言い換える事もでき、これまでの人類繁栄や思想の進化に不可欠で、極めて有効な原動力としても働いて来たのだと思います。
 なので、現在も肥大を続けるこの欲求は、人類向上の為に本能レベルで備え付けられた装置の様にも思え、私には少なくともこの資質を、無条件で否定する思いを抱く事はできません。

 この様な装置を「肥大化欲求」とするならば、物理的に限りのあるこの世界の中で、順調に肥大が加速する程に限界が近付くのは自明であり、装置の内蔵とは、すでに設置時点で崩壊の宿命を内包させた仕掛けの様にも思えます。
 では、崩壊の為に人類は肥大してきたのか。
 私は、人類にとって最も手近である肥大化欲求という原動力の裏側に、この世の法則は、ある種の防衛機構を忍ばせたのだと考えます。
 それは、人類の思考領域が、一定の水準にまで到達しないと作動しない様に、巧妙に組み込まれた防衛機構です。

 防衛機構稼動の始まりは、「肥大化欲求」という極めて有効なエネルギーを携えた人類の中の誰かが、「足りぬ物」や「至らぬ物」の中に、美や充足を見出した瞬間に起こったのだと思います。

 「価値観の反転」です。

 多くの者が、増やす事こそ幸福で、豪華な物こそ美しいと考える中、その向こう側に、足りぬ事の充足や、むき出しに削られた美が存在する事を知った瞬間、上方へ向けて加速を続けていた矢印が突然身を翻し、下方へと舵を切ります。
 空へと向かい果てしなく求めていた高みの果てが、地上にあると気づいた時、天上と地上が繋がり、価値の循環が始まります。

 それは、人類の性質や、繁栄して来た手段を考えれば革命的な価値観の転換であり、文字どおり天と地をひっくり返す画期的な視点の獲得だったと私は考えます。
 多くの常識、欲求、本能の渦をかき分け、物事の本質にまで目が届いた事、そうして発見した価値観が、多くの人間の共感を得るだけの質を有しているという事。
 そして、その価値観の実践が、肥大を求める本能を逆方向に向かわせる事。
 これ等の反転装置は、かつての日本に数多く存在し、文化の隅々にまで浸透していた物なのではないかと思います。

 そういう意味で、利休が作り上げた侘寂(わびさび)の世界は見事な反転装置で、極めて高度な芸術思想だったのではないかと考えます。
 能や狂言の簡素な様式美や、「逝きし世の面影」(渡辺京二著)に描かれていたような江戸の町並、日用品を生み出した感性もまた反転装置そのものであり、同時にその産物でもあると思います。
 同書の中で、ある女性が外から見えぬ着物の裏地にお洒落をしていたという記録があったと思いますが、これを見た時、私は「粋とはこういう事ではないか」と思いました。

 私は昔から宝石まみれの時計や、ブランドロゴに覆われた服装で身を固めた芸能人の類を見るとひどく嫌悪感を抱いていたのですが、今それを論理的に考えてみると、「野暮の極み」だったからなのだと思います。
 つまり、私の考える粋じゃないんです。

 直接的な表現や分かり易い装飾を避け、本当に大切な物を行間にそっと乗せて届ける。
 それは、ことさらに自分の富や優位性を見せびらかさない事により、いらぬ嫉妬心や競争心を煽らず、「持たぬ者」の誇りを守り、社会構造を安定させながらも、当人達はその社会的効果を自覚せぬまま、「美学」として消化し、実践する。
 しばしば批判的な意味で「分かりづらい」と言われる日本人の表現は、「分かりやすい」とされる世界の向こう側に存在する領域に触れた者達の、美意識に由来する物だったのではないかと思います。
 歴史的、学術的な定義は知りませんが、私の考える「粋」とはこういった物です。

 江戸期以前より徐々に立ち上がり、社会の隅々にまで散りばめられていったいくつもの反転装置は、「逝きし世の面影」に描かれていた様な江戸後期の文明という形で、見事に花開いていたのではないかと思います。

 そして、武術の世界においても反転装置が存在したと考えます。

 (つづく)
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テーマ : 武術と健康
ジャンル : 心と身体

tag : 武術を学ぶ意味 原理武術

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方条遼雨

Author:方条遼雨
■ カルチャー学校講師や身体講座の企画を行っています。 
■ 「動きにおける根本原理の組み替え」に主眼を置いた、【玄運動/玄武術】の概念を提唱し、武術や身体動作を研究しています。 
■ 松聲館・甲野善紀先生、動作術の会・中島章夫先生のアシスタントなども。 
ほびっと村学校講座「りきみをぬく」-日常・運動に役立つ脱力法-講師。

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