■ 甲野善紀先生からの紹介文
武術の師である甲野善紀先生が、紹介文を書いてくださいました。
方条遼雨氏が私の武術の講習会に参加するようになって、この2017年の暮でちょうど満10年になる。
方条氏は私の講習会に参加するまで、武術や格闘技に関して何も経験していないとの事だったが、非常に独自な探求心のある、ちょっと風変わりな人物というのが、最初に方条氏に会った時の印象だった。ただ、その探究心がどのような技と術理の進展をもたらすかは、まったく未知数だった。しかし、方条氏の探究心は数年の内に開花し始め、まず非常に崩されにくくなってきた。
そして、さらに数年経つうちに、その独自の探究方法は、おそらく方条氏の中で確信となったのだろう。私の技と技の原理を研究材料として、徹底的に自分の中で分析検討し、方条氏独自の術理を構築して、それに沿って稽古を積んだと思われる。その結果、実際に他の武道や格闘技経験者と手を合わせても驚かれるほどの技量を身に備えるようになった。そして現在、実際に指導者として活躍し始めている。
方条氏の特色は、すでに述べたように、その探究方法が私の技と術理を参考にしているが、まったく独自なものだという事である。しかも広くさまざまなジャンルの武術を学んでいないにもかかわらず、自らの感覚でサッカーなどのスポーツや、剣術などの道具を使う武術に関しても指導出来るようになっている。
世間ではよく「自分勝手に自己流で稽古しても大したことは出来ない。まずシッカリとした基本を“確かな師”について学ばなければ…」等と言われるが、そう言われる基本自体が本当に優れた基本かどうかは極めて疑わしい場合が多いし、仮にすぐれた基本であっても、その事を真に伝えられる師は、それこそ雨夜の星のごとく稀だと思う。
その点、方条氏はすでに再度にわたって述べているが、私の武術の技を体験し、術理の解説を聞き、それについて深く考えて自らが稽古研究するにあたって、方条氏なりの基本的原理や基本的稽古法を作り上げている。
なぜなら私自身、世間的に言われる「確かな師」には程遠く、自分の技を「正しい」とか「優れている」などとは一度も思ったことがない(もちろん、私なりに「よくこんな事に気付けたな」と思う事はあるが、古人の傑出した技と術理は遥かにまだ先にあるので、何とか今の自分を打破したいと思っているため、術理も技も常に変わっており、私自身「これが大切な基本だから、これをシッカリと身につけるように」と勧めているものは何もない)。
したがって、私から武術を学ぶとすれば、そうした私が武術と取り組んでいる姿勢を理解し、各自が自分で探究するという方法しかないのであるが、方条氏は最もそうした「松聲館スタイル」とでも呼ぶような武術の探究方法を実践して成果を挙げた典型的人物の一人という事が出来ると思う。
方条遼雨氏の今後のさらなる活躍を期待したい。
松聲館主 甲野善紀
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