絵の好きな女の子

 僕の隣に座っていた女の子は、絵が好きだった。
 いつも裏が白い広告の切れはしに、なんだか良くわからない絵を書いていた。

 僕は、彼女の絵が好きだった。
 ある日、僕は彼女に話しかけた。
 「君の絵、一枚ちょうだい。君の絵が好きなんだ。」
 彼女は、猫の様に大きく両目をひらいて、しばらく僕の事を見ていた。
 そして、視線を落として鞄をごそごそとやったあと、
 「ん……」
 と言って一枚の紙を差し出した。
 そこには、空に浮かぶ星とも人間ともわからない生物のイラストが描かれていた。
 「ありがとう。」
 僕はその絵を受けとると、彼女にお礼を言った。
 僕はその絵を、クリアファイルに大切にしまった。僕の大好きな絵だった。

 次の日、「ん……」と言って、横から一枚の紙が差し出されて来た。
 彼女の絵だった。
 「くれるの?」と聞くと、彼女はこくんとうなずいた。
 「ありがとう!」
 僕は嬉しくなって、彼女の絵をクリアファイルにしまった。

 次の日も、その次の日も、彼女は僕に絵を一枚づつくれた。
 僕は、それがとても嬉しかった。どれも僕の大好きな絵だった。

 ある日、彼女が転校する事になった。
 最後の日に、彼女は一枚絵をくれた。

 いつもより、ちょっと大きなチラシに書いてある絵だった。
 嬉しそうに四角い物を受けとる、変な生き物の絵だった。


 彼女はまだ、どこかで絵を描いているのだろうか。



テーマ : 詩・ことば
ジャンル : 小説・文学

「意味の無い男」

 男は、「自分は世の中を救いたい」といつも言っていた。
 周りは、男を愚か者だとののしった。
 男は、無能だった。
 能力がない。行動力がない。願望を実行に移せる気力がない。
 人は、男に「口先だけだ」と言った。「この世に存在する意味が無い」とも言った。

 男は、自分の存在に意味が無いと思っていた。
 自分にあるのは願望だけだ。
 自分はこの世の中に対して、何一つ意味がある事を為していない。

 ある日、男は車に跳ねられた。
 薄れ行く意識の中、
 「意味の無い人生だった」と、男は思った。
 男は、呆気なく死んだ。
 男を知る僅かな人間も、「意味の無い人生だった」と思った。

 それから時が経ち、数名の死に行く命が救われた。
 救われた患者とその家族は、名も知れぬ臓器提供者に、涙を流して感謝した。
 ある者は再び光の差した両眼で、この世のどこかに存在した何者かに、祈りを捧げた。

 男の携えていたドナーカードには、男が唯一有していた「願望」だけが記されていた。
 それは、ボールペンで記された、小さく歪な、円の形をした願望であった。
 願望は翼となり、男の肉体の欠片を、名も知らぬ人の許へと運んでいた。

 意味の無い男は、意味の無い人生を送り、意味が無いと思われたまま死んだ。
 この世のどこかで、意味の無い詩人が、意味の無い詩を残し、死んでゆく。
 意味の無い歌い手が、意味の無い歌を歌い、死んでゆく。
 意味の無い浮浪者が、意味も無く空を見上げ、死んでゆく。

 意味の無い想いは、詩は、歌は、行為は、ほんの僅かな色を有し、この世界の色と溶け合う。
 そしてこの世界は、誰にも気付かれぬまま、ほんの僅かだけ、その色を変える。

 今日もこの世のどこかで、意味の無い男が生まれ、死んで行く。
 彼等の欠片は、確かにこの世界に、溶けている。
 この世界の色を、意味の無い欠片が、今も変え続けている。

テーマ : 文学・小説
ジャンル : 小説・文学

ゴースト

 あれから、どれくらい時が経ったでしょうか。
 私は、今でも貴方を待ち続けています。
 夜はただ昏く、朝の日差しは穏やかです。
 どれくらい、季節を迎えたでしょうか。
 いつでもコーヒーは美味しく、冬の暖炉は暖かです。
 時々、子供達がお家に勝手に入り込んでは、私の顔を見て逃げ出します。
 でも、子供は好き。
 少しぐらいいたずらをされても、子供は私の寂しさを癒してくれます。
 神父様がいつの間にか現れて、私にお祈りを捧げて帰られた事もありました。
 お顔をよく見れば、あんなに小っちゃくて可愛いかったマルコ坊やでした。
 「ゴーストハンター」と名乗る大人達が、私に十字架を向けたり、聖水を浴びせかけたりして逃げて行く事もありました。
 失礼しちゃうわ。
 けれども、おおむね毎日は平穏で、何事もなく過ぎて行きます。
 コーヒーは、今日も美味しいです。
 もうすぐ、ケーキの焼ける時間だわ。
 あの頃より、ずっと上手になったのよ。
 今でも、私は貴方を待ち続けています。
 貴方のお気に入りの、白いドレスを着て。
 日差しの暖かなこの部屋で。
 日差しの暖かなこの部屋で。

テーマ : 文学・小説
ジャンル : 小説・文学

「ガラスの薔薇」

 男は、ガラスの薔薇を抱え歩いていた。
 「この薔薇が砕けた時、俺は死ぬのだ。」
 男はそう思って生きて来た。
 ある日、空から剣の雨が降って来た。
 大切に薔薇を抱える男の背を、幾千もの剣が刺し貫き、男は絶命した。
 ガラスの薔薇は、砕けなかった。

テーマ : 文学・小説
ジャンル : 小説・文学

「神の会話」(3)

 召使いは、神に問うた。
 「あなたに対する最大の冒涜とは何ですか?」
 神は答えた。
 「私に対して忠実な事だ。」

母の記憶

 母は敬虔なクリスチャンだった。

 母はよく、私にこう言っていた。
 「大切なのは、祈る心なのよ。祈る心さえあれば、神さまなんか居なくたっていい。」

 母は異教徒として魔女狩りに遭い、処刑された。

 母の言葉が、今でも私の記憶に残っている。

この世で最も不幸な者

 「この世で最も、不幸な人間は誰ですか。」
 召使いは問うた。
 「この世で最も不幸な人間は、彼女だ。」
 神は一人の女性を指差した。

 しかしその姿は、余りにも軽やかで美しかった。
 「最も不幸な者が、あれほどまでに軽やかにいられるものでしょうか。」
 召使いは問うた。

 「軽やかだからこそ、この世で最も大きな悲しみを背負う事が出来るのだ。」

神の会話 (2)

 「それにしても、不完全に過ぎるか。」
 そこで、神は一つの調整機構を人類に忍ばせる事にした。

 「どの様な調整機構ですか?」
 召使いは聞いた。
 「大勢の意識が、「この世は水である」と染まった時、「この世は火である」と述べる。結果、この世は水と火の釣り合いによって成り立つ事を気付かせる。
 大勢の意識が、「この世は火である」と染まった時、「この世は水である」と述べる。結果、この世は火と水の釣り合いによって成り立つ事を気付かせる。その様な存在だ。」

 神が設計した調整機構は、人間や、時に妖怪の姿を借りて、その役割を遂行した。

 人々は、その調整機構を、天の邪鬼(あまのじゃく)と呼んだ。

テーマ : 武術と健康
ジャンル : 心と身体

神の会話 (1)

 人間という生物を見ながら、召使いは訊ねた。
 「何故、こんなにも不完全な生物を作られたのですか。」
 神は答えた。
 「面白いからだ。」

 確かに、と召使いは思った。
 完全な存在は、つまらない。

テーマ : 武術と健康
ジャンル : 心と身体

二人の旅人

 世界をあまねく巡った二人の旅人は、この世に楽園が存在しない事を知った。

 「人は無力だ。」
 一人の旅人は、絶望に打ちひしがれた。

 「さあ、これから何をしてやろうか。」
 一人の旅人は、希望に打ち震えた。

テーマ : 武術と健康
ジャンル : 心と身体

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プロフィール

方条瞬刻

Author:方条瞬刻
■ カルチャー学校講師や身体講座の企画を行っています。 
■ 「動きにおける根本原理の組み替え」に主眼を置いた、【源運動/源武術】の概念を提唱し、武術や身体動作を研究しています。 
■ 松聲館・甲野善紀先生、半身動作研究会・中島章夫先生の術理を研究。 
■ 定期的に中島先生を講師にお招きし、東京都中央区にて「甲野善紀の術理史」という稽古会を開催中。 
ほびっと村学校講座「りきみをぬく」-日常・運動に役立つ脱力法-講師。

(お問い合わせ、ご感想など)連絡アドレス
houjoushunkoku@gmail.com
●現在、稽古会等の情報をメールマガジンにて配信中(無料)。
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